名古屋地方裁判所 平成7年(ワ)3800号 判決
原告 瀬戸がっこうユニオン
右代表者執行委員長 加藤正徳
同 中垣和史
被告 瀬戸市
右代表者市長 増岡錦也
右同所
被告 瀬戸市教育委員会
右代表者教育長 大澤義洋
被告 高島碩男
右被告三名訴訟代理人弁護士 高木修
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは、原告に対し、連帯して、金一〇〇万円及びこれに対する平成七年一〇月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、連名で、別紙陳謝文を縦横それぞれ一メートルの白紙に墨書して、瀬戸市役所一階ロビー内の掲示板、瀬戸市教育委員会の廊下、瀬戸市立八幡小学校玄関の壁面及び同小学校職員室内の四か所に一か月間にわたって掲示せよ。
第二事案の概要
本件は、被告瀬戸市の設置にかかる小中学校の教職員を組合員とする職員団体である原告が、同市立八幡小学校(以下「八幡小学校」という。)の校長であった被告高島碩男(以下「被告高島」という。)との間で、修学旅行の引率教員の勤務時間について、地方公務員法(以下「地公法」という。)五五条に基づく交渉をなしたところ、被告高島が、右引率教員について修学旅行の翌日を代休とする趣旨の合意(以下「本件合意」という。)をしながら、その後、これを一方的に破棄し、原告からの交渉再開の申入れにも一切応ぜず、これにより、原告の社会的評価及び存在価値が著しく低下し、名誉を毀損されたとし、また、被告高島が右行為に及んだのは、被告瀬戸市教育委員会(以下「被告市教委」という。)が被告高島に対し適切な指導をしなかったからであるとして、被告高島及び被告市教委に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告瀬戸市に対し、国家賠償法一条による損害賠償請求権に基づき、損害賠償及び謝罪広告を求めた事案である。
一 前提事実(特に証拠を掲げていない限り、当事者間に争いのない事実)
1 当事者
(一) 原告は、平成二年四月二九日、被告瀬戸市が設置する小中学校の教職員を組合員として設立されたものであり、地公法五二条、五三条の各要件を充足する登録職員団体である。
なお、原告に加入する組合員は、市町村立学校職員給与負担法一条に規定する教職員(以下「県費負担教職員」という。)である。
(二) 被告瀬戸市は、普通教育機関としての小中学校を設置するものであり(地方教育行政の組織及び運営に関する法律[以下「地教行法」という。]三〇条)、被告高島は、平成四年四月一日から平成八年三月三一日までの間、八幡小学校の校長であった者であり、被告市教委は、被告高島の服務監督権者である(地教行法四三条)。
2 事実経過の概要
(一)(1) 原告は、被告高島に対し、平成六年五月二五日付けの交渉申入書をもって、地公法五五条に基づき、次の各事項(以下「本件交渉申入事項」という。)について交渉の申入れを行った。(甲一)
<1> 泊を伴う野外活動や修学旅行に関しては、勤務時間を適正に割り振り、翌日を代休とすること。
<2> 長期休業中の日直勤務は、管理職が行うこと。
<3> 三年に一度の県外研修を毎年とし、教諭の研修権を保障すること。また、旅費の執行状況を公開し、会計報告をすること。
(2) 原告は、被告高島との間で、平成六年六月一日、本件交渉申入事項<1>のうち、野外活動の引率教員の勤務時間について交渉し、「泊を伴う野外活動に関しては、勤務時間を適正に割り振り、翌日を代休とする。」旨合意した。
(3) 原告は、被告高島との間で、平成六年一〇月七日、八幡小学校の校長室において、午後三時から、途中食事休憩の一時間を除き、午後一一時過ぎまで、本件交渉申入事項<1>のうち、修学旅行の引率教員の勤務時間について交渉を行った(以下「一〇月七日交渉」という。)ところ、被告高島は、「修学旅行の引率勤務は、翌日のまとめどり(八時間)で調整する。」旨発言した。(甲一一)
(二)(1) 被告高島は、原告に対し、平成六年一〇月一八日、一〇月七日交渉における発言を白紙撤回する旨の申入れをなした。
(2) 八幡小学校における平成六年度の修学旅行は、平成六年一一月八日及び同月九日の一泊二日にわたって実施されたところ、被告高島は、引率教員に対する配慮として、翌日を代休にすることなく、前日の午後三時間、翌日の午前二時間及び午後三時間の合計八時間の勤務時間を削減した。
(3) 原告は、被告高島との間で、平成七年三月三日並びに同月六日ないし同月八日の合計四日間にわたり、被告高島による一〇月七日交渉における回答の白紙撤回の件について、交渉を行った。
(4) 原告は、平成七年四月から同年六月にかけて、八幡小学校の教頭であった廣藤仁(以下「廣藤教頭」という。)を介して、被告高島に対し、幾度か交渉の再開を申し入れていたところ、被告高島から、同年七月六日、交渉日時として、同月一八日又は同月一九日が提示された。しかし、原告は、両期日とも都合がつかないとしてこれを断った。
3 被告瀬戸市が設置する小中学校における教職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関する法令、条例等
被告瀬戸市が設置する小中学校の教職員の給与、勤務時間その他の勤務条件については、県の条例で定められることとされており(地公法二四条六項、地教行法四二条)、これを受けて、県費負担教職員の勤務時間、休日、休暇等に関する事項については、「職員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例」(昭和四二年三月二四日愛知県条例第四号、乙六の1)が制定され、その細則として、「学校職員の勤務時間等に関する規則」(昭和四八年一二月二四日教育委員会規則第一二号、乙六の2)が制定され、「学校職員の勤務時間等に関する規則の施行について」(昭和四六年一二月二四日四六教職号外教育委員会通知、乙六の3)及び「学校職員の週休日及び勤務時間の割振りに関する取扱いについて」(平成元年四月七日教職第一三五号教育長通知、乙六の4)が通達されている。
また、教育職員の給与等については、国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(以下「給特法」という。)八条及び一一条の規定に基づき、「義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置条例」(昭和四六年一二月二四日愛知県条例第五五号、以下「給特条例」という。乙七の1)が制定されており、その細則として、「義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置条例の施行について」(昭和四六年一二月二四日四六教職号外教育委員会通知、以下「給特条例の施行について」という。乙七の2)が通達されている。
さらに、職務専念義務については、地公法三五条に基づき、「職務に専念する義務の特例に関する条例」(昭和二六年三月一五日条例第三号、乙四の3)が制定され、同条例二条において、職務専念義務を免除できる場合が規定され、同条三号による人事委員会が定める細則として、「職務に専念する義務の免除に関する規則」(昭和二七年四月一七日人事委員会規則、乙四の4)が制定されている。
二 争点
1 一〇月七日交渉において、原告と被告高島との間に本件合意が成立したか。
2 本件合意の成立が認められる場合、被告高島が本件合意を撤回したことが違法であるか。
3 被告高島が、平成七年四月以降本訴提起(同年一〇月四日)までの間、原告との交渉をしなかったことが違法であるか。
4 被告市教委の被告高島に対する指導に違法な点があったか。
三 争点についての当事者の主張
1 争点1、2(本件合意の成否及び本件合意撤回の違法性)について
(一) 原告の主張
(1) 原告と被告高島は、一〇月七日交渉において、口頭で、修学旅行の引率教員について修学旅行の翌日を代休とする旨の本件合意をした。
原告は、本件合意について確認書を作成することとし、廣藤教頭を介して、被告高島に対し、平成六年一〇月一一日、「修学旅行の引率勤務は、翌日のまとめどり(八時間)で調整する。」と記載した交渉確認書(甲二)を交付した。
ところが、被告高島は、原告に対し、同月一八日になって、被告市教委と相談した結果であるとして、本件合意を白紙撤回する旨を一方的に通告し、同年一一月八日及び同月九日の一泊二日で実施された修学旅行に際し、修学旅行の翌日を代休としなかった。
被告高島の右の行為は、本件合意を一方的に破棄し、原告の職員団体としての交渉権限を故なく踏みにじり、職員団体としての諸活動に重大な支障を生じさせ、原告の社会的評価及び存在価値を著しく低下させてその名誉を毀損したものである。
(2) 本件合意撤回の違法性について
<1> 被告高島は、本件合意を白紙撤回する理由として、既に保護者に対し平成六年一〇月六日付けの文書により、平成六年度の修学旅行の翌日は午前一〇時三〇分から登校する旨通知していたことから、これを変更することは保護者に混乱を招くことになると危惧したことを挙げて、その撤回には合理的理由があると主張する。
しかし、野外活動及び修学旅行の引率教員の勤務時間の問題については、既に、平成六年一月一四日の原告と被告高島との交渉において(以下「一月一四日交渉」という。)、被告高島から、口頭で、「翌日を代休にしたい。職員、保護者に対して、前もってそのことを連絡する。」との回答があり、修学旅行の翌日を代休とする旨の合意(以下「一月一四日合意」という。)が成立していたもので、被告高島が右の一月一四日合意を尊重していれば、同年一〇月七日までに、保護者に対し修学旅行の翌日を代休とする旨の連絡をすることは十分にできたはずであるから、被告高島が、右のような理由によって本件合意を撤回することには何ら合理性が認められない。
<2> また、被告らは、修学旅行の翌日を代休とすることを求める原告の要求が、条例に根拠のない特別の休暇を求めるもので違法なものであるから、本件合意は無効であると主張する。
しかし、原告は、野外活動の翌日を職務専念義務の免除による配慮によって代休とすることが可能であるならば、修学旅行の翌日も、右同様の配慮により代休とすることができる旨を主張したものであって、被告らが主張するような特別の休暇を求めたものではなく、被告らは原告の主張を曲解しているものである。
原告が、本件合意の根拠として主張しているのは、給特条例七条一項に基づく「正規の勤務時間の割振り」を適正に行うことによる勤務時間の振替えとしての代休、又は、給特法七条に基づく「十分な配慮」としての職務専念義務の免除扱いによる代休である。
原告は、被告市教委との交渉においても、被告高島との交渉においても、右根拠に基づいて交渉していたものであるから、被告らの右主張は何ら理由がない。
<3> さらに、被告らは、原告の組合員が平成六年度の修学旅行に参加していなかったことなどを理由として、被告高島に何らかの過誤が認められたとしても、原告に対し、損害賠償ないし謝罪広告をしなければならないほどの違法性は認められないと主張するが、原告の組合員が当該年度の修学旅行に参加していなかったとしても、次年度以降において参加する可能性はあり、自らの勤務条件に関わるものとして本件合意をしたものであるから、原告の組合員が当該年度の修学旅行に参加していなかったことをもって、損害賠償ないし謝罪広告をしなければならないほどの違法性はないということはできない。
(二) 被告らの主張
(1) 被告高島は、一〇月七日交渉においては、修学旅行における時間外勤務は、翌日のまとめ取り(八時間)で調整する方向で検討する旨回答したものであり、その実施を確約したわけではなく、いまだ最終的合意は成立していなかった。
(2) 仮に、一〇月七日交渉において本件合意が成立していたとしても、次の<1>ないし<3>の理由により、被告高島が本件合意を撤回したことは違法ではないというべきである。
<1> 本件合意を白紙撤回した合理的理由
本件合意の内容は、後記<2>のとおり、条例の根拠に基づくことなく、条例に定める休暇とは別の特別な休暇を与えるものであり、地公法二四条六項に反するものであったが、被告高島は、一〇月七日交渉の時点では、そのことを知らなかった。そして、被告高島は、被告市教委の当時の学校教育課長大澤義洋(以下「大澤課長」という。)から、横浜地方裁判所平成六年八月三〇日判決(以下「横浜地裁判決」という。)の写しを送付されて、本件合意が法令に反する違法なものであることを知った。
また、被告高島は、一〇月七日交渉が長時間に及ぶもので、精神的にも肉体的にも疲労困憊していたため、既に、平成六年一〇月六日付けで、児童の保護者に対し、「修学旅行の翌日(一〇日)は、午前一○時三〇分から登校する。」旨記載した文書を配布済みであったことを失念していたところ、このような段階で、本件合意に従って修学旅行の翌日を代休とする旨の変更通知を出しても、周知徹底に困難を伴うもので、保護者の混乱を招くおそれがあった。
被告高島は、一〇月七日交渉後、右の各点に気づいたことから、原告に対し、本件合意を白紙撤回する旨の申入れを行ったものであり、右白紙撤回には合理的理由があったものである。
<2> 原告の代休要求の適法性について
原告は、修学旅行の引率教員について、勤務時間を適正に割り振り、修学旅行の翌日を代休とすることを要求している。
ところで、一泊二日の修学旅行の引率をする場合、必然的に時間外勤務を行うことになるから、引率教員に対しては運用上適切な配慮をしなければならないのは当然であるが、原告の右代休要求は、まさに時間外勤務の時間数に対応させて同等の時間による休暇を求めるものにほかならないところ、公務員にどのような休暇を与えるか定めた条例の中に、「年次休暇又は特別休暇のほかに、時間外勤務の代償として同じ時間の有給休暇を与えることができる。」旨の規定がない以上、このような特別の休暇を与えることは、地公法二四条六項の規定に反するものであり、かつ、時間外勤務手当制度は教育職員にはなじまないとして、教育職員の勤務時間の管理について運用上特別な配慮を認めた給特法の規定をも潜脱するものであって違法なものである。
したがって、仮に、本件合意が成立していたとしても、本件合意は地公法及び給特法に違反するものであり、無効というべきである。
<3> 八幡小学校の平成六年度の修学旅行について
平成六年当時、被告瀬戸市が設置する小学校においては、泊を伴う学校行事の引率勤務について、二泊三日の野外活動の場合は、翌日を健康回復のための配慮として職務専念義務を免除し、一泊二日の修学旅行の場合は、健康回復のための配慮として、旅行の前日と翌日に分けて、合計五時間ないし八時間の勤務時間を削減する取扱いをすることで対応していた(なお、野外活動と修学旅行とで配慮の内容が異なっているのは、引率教員の疲労度が一泊と二泊では著しく相違しているからであった。)。
ところで、校長が、教育職員に対して時間外勤務を命ずる場合、学校の運営が円滑に行われるように、関係する教育職員の繁忙の度合い、健康状況等を勘案し、その意向を十分尊重して行うことになっているところ(「給特条例の施行について」参照)、八幡小学校においても、平成六年度の修学旅行は、担当の教職員の合意によって計画立案され、これに従って実施されたもので、担当の教職員に対する配慮としては、前日の午後三時間、翌日の午前二時間及び午後三時間について勤務時間を削減する調整措置を講じたものであり、担当の教職員からは、事前も事後も、何ら異議は出されなかった。なお、原告の組合員には、当該年度の修学旅行に参加したものはいなかった。
したがって、仮に、被告高島に何らかの過誤が認められたとしても、被告らにおいて、原告に対し、損害賠償ないし謝罪広告をしなければならないほどの違法性は認められないというべきである。
2 争点3(交渉拒否の違法性)について
(一) 原告の主張
原告は、被告高島による本件合意の白紙撤回後、本件合意の履行及び本件交渉申入事項<2>、<3>の交渉を求めて、被告高島に対し、交渉再開の申入れを繰り返していたが、被告高島は、平成七年四月から同年七月までは行事も出張もなく、交渉の機会は多々あったにもかかわらず、交渉日時について何らの提示もしなかったもので、本件合意の不履行を追及されたくなかったことから、原告との交渉を意図的に拒否していたことが明らかである。
ところで、被告高島は、原告の交渉申入事項が、本件合意の白紙撤回の撤回を求めることを内容としていたから、交渉できなかったなどと主張しているが、本件合意が成立したにもかかわらず、これを白紙撤回したのであるから、原告としては、これを黙認することができず、白紙撤回の撤回を求めるのは、職員団体である原告の活動として当然のことであり、被告高島において交渉を拒否し得る理由にならないことは明らかである。
被告高島は、原告からの再三にわたる交渉再開の申入れにもかかわらず、交渉を実施せず、原告の職員団体としての交渉権限を故なく踏みにじり、職員団体としての諸活動に重大な支障を生じさせ、原告の社会的評価及び存在価値を著しく低下させてその名誉を毀損したものである。
(二) 被告らの主張
一〇月七日交渉後、被告高島と原告との間で交渉がもたれなかったのは、交渉日時について調整ができなかったことに加え、原告の申し入れた交渉内容が、被告高島が既に白紙撤回した問題を蒸し返す内容であったことから、交渉することが無益であったためである。
また、本件交渉申入事項<2>、<3>についても、原告は、本件合意の白紙撤回の撤回を前提条件として交渉申入れをしてきたため、被告高島としてはこれに応ずることができなかったものである。
したがって、被告高島において、原告からの交渉申入れを不当に拒否した事実はない。
3 争点4(被告市教委の不法行為の成否)について
(一) 原告の主張
(1) 原告は、被告市教委との間で、平成五年一〇月二九日、本件交渉申入事項<1>等について交渉を行ったところ、被告市教委は、野外活動及び修学旅行については、「職員の勤務時間の割り振りを適正にするため、翌日を休みとするよう指導する方向でいきたい。校長会の報告を校長から全職員に伝えるようにさせる。」旨回答し(以下「被告市教委との確認事項」という。)、同年一一月上旬に行われた校長会において、各学校の校長に対し、野外活動及び修学旅行の翌日を代休とする方向で指導した。
また、原告は、被告市教委との間で、平成六年二月二二日にも右同様に交渉を行い、被告市教委との確認事項を再確認しており、被告市教委は、同年三月の役員会又は校長会において、右同様の指導をした。
(2) しかし、被告高島が、一〇月七日交渉後間もなくして、被告市教委に本件合意について相談したところ、大澤課長は、被告高島に対し、本件合意のような事例は見当たらない旨回答した。
右のとおり、被告市教委が、被告高島に対し、被告市教委との確認事項に反する回答をしたことが、被告高島による本件合意の撤回という事態を生じさせたものであるから、原告は、被告市教委の不適切な指導によって回復し難い損害を被ったものである。
(二) 被告らの主張
被告市教委は、服務監督権者として各校長を指導する立場にあるが、教職員の具体的な勤務条件について、職員団体との間でどのように交渉し、また、その交渉結果についてどのように対応するかは、各校長が、当該学校の置かれた実状に即して対応することになっており、被告市教委としては、各校長の対応が関係法令に違反することのないように総合的な見地から指導を行うにとどまるものである。
被告市教委は、平成六年一〇月一一日、被告高島から、一〇月七日交渉の内容及び経過について報告を受け、修学旅行の翌日を代休とした取扱実例の照会と対応の相談をされたことから、大澤課長において、右の取扱事例は見当たらないことを回答するとともに、修学旅行中の夜間を含む時間外勤務の時間数に対応させて、これと同等の時間の休暇を認めることは、給特法の規定に違反するおそれがあることを指摘し、参考資料として、横浜地裁判決の写しを被告高島に送付したものであり、右の被告市教委の対応は何ら不法行為に該当するものではない。
第三争点に関する判断
一 証拠によれば、次の各事実が認められる。
1 一〇月七日交渉までの経過
(一) 平成五年一〇月二九日の原告と被告市教委との交渉について(甲六、原告代表者中垣和史、被告市教委代表者大澤義洋)
原告は、被告市教委との間で、平成五年一〇月二九日、泊を伴う学校行事の引率教員の勤務時間に関する事項を含む六項目について交渉し、右交渉結果を同年一二月二日付け確認書としてまとめ、被告市教委に記名押印を求めたところ、被告市教委は、右確認書に記載された事項につき、原告と理解が異なる部分があったため訂正を申し入れ、右確認書には押印しなかったが、その後、平成六年二月二二日の交渉を経て、右確認書に記名押印した。
右確認書には、「野外活動・修学旅行について、勤務時間の割り振りを適正に行い、時間外勤務がないよう各学校長を指導すること」の項目に対する被告市教委の回答として、「適正に割り振るよう機会あるごとに指導していく。行事としてだけでなく、教科の時間数として組み込んでもよいと話す。職員の勤務時間の割り振りを適正にするため、翌日を休みとするよう指導する方向でいきたい。校長会の報告を校長から全職員に伝えるようにさせる。」旨記載されており、原告の保留事項として、泊を伴う学校行事の引率教員は、「児童が寝ている時間も職員は拘束されているが、翌日が代休ならば、児童の寝ている時間についての勤務時間の割り振りについては、今回の交渉では問わず、保留する。」旨記載されていたところ、被告市教委としては、右のうち、「翌日を休みとするよう指導する」とある部分は、「翌日を休みとするのが望ましいと指導する」との趣旨として理解していたものであった。
(二) 平成五年一一月一九日の原告と被告高島との交渉(以下「平成五年一一月一九日交渉」という。)について(甲三)
原告は、被告高島との間で、平成五年一一月一九日、「泊を伴う野外活動や修学旅行に関しては、翌日を代休とするなど、勤務時間を適正に割り振ること」を含む四項目について交渉し、右交渉結果を平成五年一一月二二日付け交渉確認書としてまとめ、被告高島の記名押印を得た。
右交渉確認書の第四項には、「(ユニオン組合員は五、六年生を担任していないので、参考までに八幡小の実情を当局が話すという中で)適正な割り振りを行う。今年度修学旅行に関して、前日三時間、翌日二時間で積み残している部分については、早急に割り振る。来年度以降、翌日が土曜日の場合は、代休とする。来年度以降の翌日が平日の場合に関する部分から、交渉を保留。」と記載されていた。
(三) 平成六年一月一四日の原告と被告高島との交渉について(甲一〇、一五、原告代表者中垣和史、被告高島碩男、弁論の全趣旨)
原告は、被告高島との間で、平成六年一月一四日、前回(平成五年一一月一九日)の交渉に引き続いて、泊を伴う学校行事等の四項目につき交渉した。
ところで、被告高島は、平成五年一一月上旬ころ開催された校長会において、被告市教委から、前記(一)の交渉により野外活動や修学旅行の翌日を休みとするのが望ましいとの見解を原告に示したとの説明を受けていたが、八幡小学校のPTAの役員会において保護者の意見を聞いた際、二泊三日の学校行事の場合に翌日を代休とすることは理解できるが、一泊二日の学校行事の場合は困るという意見がほとんどであったこと、こうしたPTAの意見の背景には、瀬戸市は零細企業が中心で、土曜日や日曜日も父母が働いている家庭が多く、特に、八幡小学校地区では共稼ぎの家庭が多いという事情があり、保護者からは、前年度から施行されていた第二、第四土曜日の休日制度に対してさえ、土曜日を休日としないでほしいとの要請があったことなどから、八幡小学校地区においては、一泊二日の修学旅行についてまでその翌日を代休とすることは、保護者の理解を得ることが困難であり、時期尚早と考えていた。
そこで、被告高島は、右交渉の中で、原告に対し、修学旅行の翌日を代休にすることは難しい旨述べていたが、原告から執拗に要求されたため、最後のまとめの段階になって、次年度のことでもあり、保護者の意向や周辺の小学校の実施状況など、条件が整えばできるかもしれないと考えて、修学旅行の翌日を代休としたい旨回答し、さらに、原告の要求により、職員だけでなく該当の保護者にも右方針を伝えていく旨回答したが、右交渉における被告高島の全体の発言の経過からすれば、被告高島の右回答が右のような趣旨でのものであったことは、原告においても理解できるものであった。
原告は、一月一四日交渉の交渉結果を平成六年二月七日付け交渉確認書としてまとめ、右交渉確認書の「泊を伴う野外活動や修学旅行に関しては、翌日を代休とするなど、勤務時間を適正に割り振ること。」の項目について、被告高島の回答として、「(この項の平日部分について)翌日を代休にしたい。職員、保護者に対して、前もってそのことを連絡する。」と記載し、被告高島に記名押印を求めたが、被告高島は右交渉確認書に記名押印しなかった。
なお、原告は、一月一四日交渉において、修学旅行の翌日を代休とする旨の合意が成立したと主張しているが、右の交渉経過及び右交渉確認書の文言からすると、被告高島は、翌日を代休とする方向で検討したいとの意向を述べたにとどまるものであることが明らかであり、原告主張のような合意が成立したことを認めるに足りる的確な証拠は存在しない。
(四) 平成六年二月二二日の原告と被告市教委との交渉について(甲七、原告代表者中垣和史、被告市教委代表者大澤義洋)
原告は、平成六年二月二二日、被告市教委との間で交渉をし、右交渉結果を平成六年三月一〇日付け確認書(甲七)としてまとめ、被告市教委の記名押印を得た。
右確認書には、被告市教委の回答として、「野外活動、修学旅行について、改めて、役員会か三月の校長会で翌日を休みとするよう市の指導として話をする。」と記載されていた。
(五) 平成六年三月二日の校長会における被告市教委の説明について(被告高島碩男、被告市教委代表者大澤義洋)
被告市教委は、平成六年三月二日に開催された校長会において、各校長に対し、原告との間で、野外活動と修学旅行の翌日を代休とするよう指導するという内容の確認書を取り交わしたことを報告するとともに、翌日を代休とすることは、二泊三日の行事に限定するものではなく、一泊二日の修学旅行の翌日を代休とすることについても各学校の実状に合わせて引き続き検討してほしい旨要請した。
しかし、右校長会では、各校長から、二泊三日の野外活動の翌日を代休にすることはやむを得ないが、一泊二日の修学旅行の翌日を代休にすることは時期尚早でないかとの意見が多く出され、被告高島は、右のような校長会の動向から、一泊二日の修学旅行の翌日を代休にすることは、ますます時期尚早との思いを強めた。
(六) 平成六年三月四日の原告と被告高島との交渉について(甲五)
原告は、平成六年三月四日、被告高島との間で交渉をし、当日の交渉結果のほか、一月一四日交渉に関して、「ユニオンとの確認事項は、八幡小学校の全教員に適用される。交渉終了後は、文書確認をする。」との記載を加えて、同月五日付け交渉確認書としてまとめ、被告高島に記名押印を求めたが、被告高島は右交渉確認書に記名押印しなかった。
(七) 平成六年五月二五日の交渉申入れについて(甲一)
原告は、被告高島に対し、平成六年五月二五日、地公法五五条に基づき、本件交渉申入事項<1>ないし<3>について交渉の申入れをなした。
(八) 平成六年六月一日の原告と被告高島との交渉について(当事者間に争いがない。)
原告は、被告高島との間で、平成六年六月一日、本件交渉申入事項<1>のうち、二泊三日の野外活動について、「勤務時間を適正に割り振り、翌日を代休とする。」旨合意した。
2 平成六年一〇月七日の原告と被告高島との交渉について(甲二、一一、一三、一四、乙二、三、原告代表者中垣和史、被告高島碩男)
(一) 原告と被告高島は、平成六年九月ころ、本件交渉申入事項<1>のうち、修学旅行の翌日の取扱いに関して予備交渉を行い、本交渉を同年一〇月七日午後三時から行うこととした。このとき、交渉終了時刻については確認がされなかったが、それまでの交渉はいずれも午後五時までに終了していたので、原告も被告高島も、交渉終了時刻は午後五時と考えていた。
(二) 一〇月七日交渉は、八幡小学校の校長室において、同日午後三時から、被告高島、廣藤教頭及び原告組合役員六名が出席して開始された。
被告高島は、右交渉において、原告に対し、修学旅行については昨年度と同様に、前日の三時間と翌日の五時間を健康回復のための配慮として勤務時間を解除するとの回答を繰り返し表明し、修学旅行の翌日を代休とすることについては、保護者の理解を得ることが困難であることを説明して原告の理解を求めた。
これに対し、原告は、原則論として、修学旅行の引率勤務は長時間の時間外勤務を含むので時間外勤務時間を算出し、これに対応する時間による回復措置を講じること、女性教員の深夜勤務をなくすため、代替要員を配置することが必要である旨主張する一方、現実的な妥協策として、修学旅行の翌日を代休とすることにより、長時間の時間外勤務や女性教員の深夜勤務の問題を不問に付すことを提案し、修学旅行の翌日を代休とするよう繰り返し要求した。
原告と被告高島は、同日午後五時を過ぎても平行線のままであったため、食事のための休憩時間を一時間ほどとった後、午後七時から再び交渉を再開した。
被告高島は、右休憩後、一泊二日の修学旅行の場合、翌日を代休とすることについては、保護者の理解を得られるか自信がなく、生徒は何らかの形で出校させて指導しなければならないと考えていること、引率教員については、修学旅行の翌日に八時間のまとめ取りを行い、代休にすることも一つの方法であるとは思うが、これを行うには学校運営上困難な面があることを説明し、原告の理解を求める一方、原告の要求に理解を示すべく、引率教員の勤務時間の配慮を合計八時間より拡大し、一日当たり最大限四時間を三回に分けて削減することとし、生徒の授業については、管理職が中心となって進めていく方向ではどうかとの新たな提案をした。
これに対し、原告の組合役員は、口々に、「管理職が中心となって補欠を組むとはどういうことですか。あなたが全部やらなくては駄目でしょう。他の先生に回しちゃいかんでしょう。」、「補欠といっても、担任がプリントを用意したりして出て行くような補欠じゃ、あかんですからね。」、「その辺、校長先生分かってないんじゃない。」等々、執拗に追及を繰り返し、被告高島の右提案はおよそ実現不可能であると批判した挙句、被告高島に対し、「校長さん、何か適当にでまかせに割り振れとか、でまかせに考えとるだけじゃないですか。」、「あんた初めからやる気ないんですよ。今まで言ったの、今日の組合交渉の一番初めから言ってきたの嘘ばっかなんですよ。」などと激しい非難を加えるようになった。
また、女性教員の深夜勤務の問題については、被告高島も、これを何とかしたいとの思いがあったため、女性教員には深夜勤務をさせず、自分が中心になって男性教員でやっていくことを考えたい旨の発言をしたところ、原告の組合役員は、口々に、「条件整備をしなきゃいけないですよ、あなたは。何も条件整備しなかったら、(女性教員に)やらなくてもいいと言ってもやらざるを得ないんですよ。実際、女の子が、例えば、生理のことなんかで、突然なったとか言ったときに、やっぱり頼りになるのは、養護の先生なり、女性の先生でしょうが。」、「そのあたりのことわかっとるのかね、本当に。適当に言っとるだけじゃないですか。」、「あなた、何考えているんですか。」、「黙ってないで答えて下さい。進行しましょう。どうするんですか。深夜勤務は、女性の深夜勤務はどうするんですか。だんまりでは交渉は終わりませんよ。いつまで経っても。ちゃんと答えなくっちゃ。」などと執拗に追及を繰り返した上、「(午後)四時から翌日の(午前)八時半まで代わりの人を頼めば一番ええ。割振り何もいらん。」、「いっぺんにそうじゃなくても、女性教諭くらいはやりますか。本当に。」、「すごい解決案が出てきましたね。」、「女子教員の部分については代替えを確保する、そういうことでいいですか。それ確認してください。」などと言って回答を迫り、被告高島が、困惑して、「いや、それは、ちょっと待ってください。」と答えると、更に、「待ってくださいとは、どういうことですか。じゃあどうするんですか。」、「そらあ、難癖をいくらでもつけられるわ。誠実に話をして、もし必要ならば、他の学校でも交渉に行きますから。もう、そういう誠意ある段階は、終わってしまっとるから、今更そこに戻れんでしょう。」などと言われ、もはや、正常に話合いのできる雰囲気ではない状態となり、被告高島は困惑するばかりであった。
被告高島は、原告の組合役員からの発言に対し、時折、応答はするものの、被告高島が一言応答すれば原告の組合役員から口々に批判され、強い口調で執拗に追及される状況が繰り返されたことから、何の応答もできないまま沈黙して過ごす時間が長くなっていったところ、沈黙が続くと、原告の組合役員から、「黙ってないで、言って下さいよ。今日は、何時間と待たされているんですから、僕たちは。」、「もう、校長先生いいでしょう。勘弁して下さい。代休にするということでいいじゃないですか。いつまでも我々、引き留めないで下さい。」などと非難された挙句、修学旅行の翌日の取扱いについて、「もう代休にした方がいいでしょう。なんなら、二日続いて代休にしてもいいけれど。」、「一言、翌日を代休と。先ほど数えましたら、一○文字程度ですので、わずか三秒から五秒で。」などと、長時間にわたって執拗に、かつ、多人数で一方的に、修学旅行の翌日を代休とする旨の合意に応ずるよう迫られた。
被告高島は、長時間にわたって吊し上げ同然に追及を繰り返し受ける中、精神的にも肉体的にも疲労困憊し、原告から自己の提案がことごとく問題があるとして非難されていることからすれば、残された方策としては、もはや原告の要求に沿って検討するしかないものと追いつめられ、やむなく、「答えは一つに絞られている。」旨発言したところ、「じゃ、答えて下さいよ。後のことは、後で考えて下さいよ。」と畳みかけられ、原告から、「それでは、こちらから文例を。八時間のまとめ取りを行う。」などと、同日の交渉結果として、合意文言を確認するよう求められるとともに、原告は、当年度いっぱいは本件について情報宣伝活動をしないこと、他の小学校で交渉を行う場合も八幡小学校の例を引き合いに出さないことなどの条件が示されたことから、被告高島において、「修学旅行の引率勤務は、翌日のまとめ取りで調整する。」、「強いて入れれば、まとめ取り(八時間)。」と発言するに至った。
なお、右交渉終了時刻は午後一一時を過ぎており、被告高島は、長時間、深夜にわたる交渉の疲労から、「修学旅行の前日である同年一一月七日(月曜日)は四時限で終了とし(給食有り)、修学旅行の翌日である同月一〇日(木曜日)は三時限目(午前一○時三〇分)から授業を行う。」旨記載した日程表(乙三)を同月六日に保護者に対して配布済みであったことを全く失念していた。
3 一〇月七日交渉後の経過
(一) 本件合意の白紙撤回について(甲二、乙二、原告代表者中垣和史、被告高島碩男、被告市教委代表者大澤義洋)
(1) 一〇月七日交渉の翌日である平成六年一〇月八日から同月一〇日までは三連休であったことから、被告高島は、その間、一〇月七日交渉の結果について検討していたところ、修学旅行の前日と翌日の日程表を同月六日に保護者に対して配布済みであったことを思い出し、修学旅行の翌日を休業にするとすれば、保護者に混乱が生じ、保護者との信頼関係が破壊されて学校不信にもつながりかねないと考え、それよりは原告との合意を撤回しようと決意した。
(2) 原告の組合役員中垣和史(以下「中垣組合役員」という。)は、連休明けの平成六年一〇月一一日、被告高島に対し、「修学旅行の引率勤務は、翌日のまとめ取り(八時間)で調整する。」と記載した同日付けの交渉確認書を交付し、これに署名捺印するよう求めた。
被告高島は、中垣組合役員に対し、検討させてほしい旨述べて右交渉確認書を受け取り、同日の午前中、被告市教委の大澤課長に電話し、一〇月七日交渉の経過を報告し、修学旅行の翌日を代休とする趣旨の本件合意をしたことを伝えた上、保護者に混乱をもたらすおそれがあるため、本件合意を白紙撤回したい旨相談したところ、大澤課長は、「原告の立場もあるから慎重に検討する必要がある。時間外勤務についての判例を参考資料として送付する。」旨助言した。
そこで、被告高島は、同日の午後、中垣組合役員に対し、検討したいことがあるので交渉確認書は一週間くらい預からせてほしい旨伝えた。
なお、大澤課長から被告高島に送付された横浜地裁判決の要旨は、「時間外勤務が行われた場合になされるべき『十分な配慮』、『考慮』は、法令、条例等により許される方法で行われるべきものであるところ、神奈川県の勤務時間等に関する条例は、時間外勤務の場合には代休等を与えない趣旨と解される。そうすると、時間外勤務をこれに対応する時間によって回復させる旨の当局と職員団体との合意は、条例に定める休暇とは別の特別の休暇を条例の根拠に基づかないで与えるものであり、地公法二四条六項に違反する。」というものであった(なお、右結論は、上告審である最高裁判所第一小法廷平成一〇年四月三〇日判決でも維持されている。)。
(3) 被告高島は、横浜地裁判決を読んで本件合意は違法であると判断し、平成六年一〇月一八日、中垣組合役員に対し、既に保護者宛に修学旅行の前後の日程が通知されていたのを失念していたこと及び時間外勤務については代休は認められないとの裁判例があることを述べて、自分の方に重大な事実誤認があったから本件合意を白紙に戻したい旨通告した。
(二) 平成六年一〇月二一日の原告の抗議行動について(甲一三、一四、乙二、原告代表者中垣和史、被告高島碩男)
原告の組合役員は、平成六年一〇月二一日午後四時ころ、八幡小学校校長室において、被告高島に対し、本件合意の白紙撤回について、「理由を説明しろ。」などと大声で抗議した。これに対し、被告高島は、同月一八日に説明した理由を述べて、二つの点で重大な事実誤認があったとし、本件合意を白紙撤回する旨を再度通告するとともに、修学旅行までにまだ日があるので、白紙の状態から再交渉したい旨述べた。しかし、原告の組合役員は、「そんな馬鹿なことが通ると思っとるか。」、「組合の交渉を何と思っとるか。」などと口々に叫び、二時間ほどにわたって本件合意の白紙撤回の撤回を求め、これに応じようとしない被告高島に対し、大声で罵声を浴びせるなどしたため、激しく紛糾した。
(三) 平成六年度の修学旅行の実施について(乙二、三、被告高島碩男)
平成六年一〇月二一日の抗議行動の後、原告から被告高島に対して再交渉の申入れも抗議行動もないまま経過し、同年一一月八日及び同月九日、一泊二日の日程で八幡小学校の平成六年度の修学旅行が実施され、引率教員については、同年一〇月六日付けで保護者に通知されていた日程表どおり、前日の午後三時間、翌日の午前二時間及び午後三時間の合計八時間について授業を削減する調整が行われたが、平成六年度の修学旅行の引率教員からは何の不満も出されなかった。
(四) 平成七年三月三日並びに同月六日ないし同月八日の交渉(以下「平成七年三月交渉」という。)について(甲一四、一六、乙二、原告代表者中垣和史、被告高島碩男)
(1) 平成六年度の修学旅行の実施後、平成七年二月中旬ころまでは、中垣組合役員から、被告高島に対し、本件合意の白紙撤回を撤回する意思はないかと口頭で質問することは数回あったが、原告から、被告高島に対し、正式に交渉の申入れをすることはなかった。
(2) 原告は、平成七年二月下旬ころ、被告高島に対し、本件合意の白紙撤回の件について、口頭で緊急交渉の申入れをした。そして、原告と被告高島は、同年三月三日並びに同月六日ないし同月八日の四日間にわたり、各一時間ずつほど交渉を行った。
原告は、この間の交渉で、被告高島に対し、本件合意の書面化を要求したところ、被告高島は、一〇月七日交渉において、「修学旅行の引率勤務は、翌日のまとめ取り(八時間)で調整する。」との合意をしたことは認めたものの、本件合意の確認は口頭で行う旨答えるとともに、白紙撤回の結論は変えない旨言明し、これに対し、原告の組合役員は激しく抗議し、双方とも全く譲らないまま交渉はこう着状態となって終了した。
(五) 平成七年四月以降の経過について(甲一四、乙二、原告代表者中垣和史、被告高島碩男、弁論の全趣旨)
(1) 被告高島は、平成七年四月以降、中垣組合役員から、廣藤教頭を介し、数回にわたって交渉の再開を打診されたことから、既に実施された平成六年度の修学旅行に関してではなく、平成七年度の修学旅行の実施についてであれば交渉に応じる用意がある旨回答したところ、原告が、本件合意の白紙撤回の撤回を求めることを交渉事項とすることに固執したため、被告高島においては、本件合意の白紙撤回の件であれば、平成七年三月交渉と同じことの繰り返しになることは明らかであり、右の件について更に交渉しても意味はないと考え、原告に対し、交渉日時を提示しなかったため、予備交渉も成立しなかった。
(2) 原告は、同年六月初めころ、廣藤教頭を介して、被告高島に対し、「修学旅行について」ということで交渉の申入れをなしたところ、被告高島は、平成七年度の修学旅行についてであれば交渉に応ずべきであると考え、同年七月六日、廣藤教頭を介して、原告に対し、交渉日時として、学級担任の教員が生徒の通知票の提出を終わる時期である同月一八日又は同月一九日の午後三時からという提示をした。
しかし、原告は、同月一八日は学期末で繁忙期であり、また、同月一九日は被告市教委との交渉が既に予定されていたため、右両日に交渉を行うことは無理であるとして、夏季休業期間中を除く他の日に変更してくれるよう廣藤教頭に申し入れた。
そのため、被告高島が提示した日時に交渉がもたれることはなかった。
(3) 被告高島は、夏季休業期間が終わり二学期に入ってから、中垣組合役員より、本件合意の白紙撤回の撤回を打診されることはあったが、正式の交渉申入れはなかったことから、交渉日時の指定をしないまま経過したところ、原告は、平成七年一〇月四日、本訴を提起した。
二 右一で認定した事実に基づいて、本件各争点について検討する。
1 争点1、2(本件合意の成否及び本件合意撤回の違法性)について
(一) 前記認定事実によれば、原告と被告高島の間において、一〇月七日交渉の結果、修学旅行の引率教員について、修学旅行の翌日を代休とする趣旨の本件合意が口頭で成立したものと一応は認めることができる。
しかしながら、一〇月七日交渉の経過を見ると、当局側からは、被告高島と廣藤教頭の二名が出席し、原告からは組合役員六名が出席して、午後三時から午後一一時過ぎまで、途中、一時間ほどの食事休憩の時間を除き、およそ七時間にも及ぶ長時間の交渉であったもので、被告高島は、交渉当初から、修学旅行の翌日を代休とすることは、保護者の理解を得ることが困難である旨説明して、前日の三時間と翌日の五時間を健康回復のための配慮として勤務時間を削減する取扱いにしたい旨繰り返し回答していたものであり、当時の八幡小学校の実状及び給特条例の趣旨からすれば、決して不当な回答ではなかったが、原告は被告高島の右回答に納得せず、延々と交渉を継続して自分たちの要求が受け入れられるまで同日の交渉を終了させる姿勢を全く示さず、被告高島において、妥協案として、最大限四時間ずつ半日単位で三回に分けて勤務時間を削減し、生徒の授業は管理職が中心になって行うことを提案するや、原告は、他の教員に授業を行わせるべきではなく、校長一人の責任で全部を行うべきであると無理難題を要求し、被告高島が実際にはできないことを言うもので嘘を言っているとして一方的に非難し、さらに、女性教員の深夜勤務の問題についても、被告高島が代わって行いたいと述べるや、被告高島が女性教員や養護教諭の代わりを行うことは実質的に無理であり、代替要員を確保する以外に方法がないとして、これを合意として確認するよう一方的に迫るなどし、被告高島の発言に対しては、原告の組合役員から、口々に厳しい批判を一方的、かつ、執拗に加え、被告高島が返答に窮して沈黙が続くと、そうした態度を更に厳しく非難するなどして、原告の要求に従って合意するよう繰り返し要求を続けたものであり、被告高島においては、深夜まで長時間にわたって吊し上げ同然に追及を繰り返し受ける中、精神的にも肉体的にも疲労し、追いつめられた結果、午後一一時過ぎころになって、原告から、合意文言についても誘導を受けつつ、「修学旅行の引率勤務は、翌日のまとめ取り(八時間)で調整する。」と回答して本件合意をするに至ったものであることが認められるのであり、被告高島において、本件合意の当時、原告からの長時間にわたる厳しい追及により、冷静な判断ができない状態になっていたことが推認され、さればこそ、右当時、保護者宛に修学旅行に関する日程表が配布済みであることさえ失念し、保護者に及ぼす影響等について十分な検討をしないまま本件合意をなすに至ったものであり、原告においても、「後のことは後で考えて下さいよ。」などと発言するなどしていることからしても、被告高島が十分な検討ができていない状態のもとで、原告から押し付けられるようにして本件合意に応じたものであることは認識していたものというべきである。
(二) ところで、地公法五五条は、職員団体は当局との交渉により、法令、条例、地方公共団体の規則、地方公共団体の機関の定める規程(以下「法令等」という。)に抵触しない限りにおいて、書面協定を締結することができると定めているが(地公法五五条九項)、口頭の合意の効力を否定する規定が存在しないことからすれば、口頭の合意も有効であり、その効力は書面協定による合意の効力と何ら異なるところはないと解される。
そこで、地公法五五条に基づく交渉によって成立した合意の効力について検討するに、合意内容が法令等に抵触する場合に無効となることは当然として(同条三項及び九項)、有効な場合であっても、職員団体の団体協約締結権が明確に否定されていること(同条二項)、書面協定について、双方において誠意と責任をもって履行することが規定されていること(同条一○項)からすると、合意によって債権債務関係が発生するという意味での法的拘束力を生ずるものではなく、原則として道義上の責任が生ずるにとどまると解するのが相当である。
しかし、合意の効力が道義上の責任にとどまるとしても、地公法上、職員団体の交渉権が保障され、成立した合意については誠意と責任をもって履行すべきことが規定されていることからすれば、いったん成立した合意を相当な理由がないのに安易に撤回することは右交渉権を規定した意義を失わせることになるから、職員団体の交渉権を違法に侵害したものとして、慰謝料相当の損害賠償請求権が発生するものと解するのが相当である(なお、合意の効力が道義上の責任であることからすれば、その撤回には合理的な理由までは必要でなく、相当な理由で足りるものと解するのが相当である。)。
したがって、本件合意についても、被告高島による合意の白紙撤回に相当な理由がない場合は、原告に対し、慰謝料相当の損害賠償責任が発生するというべきであるから、次に、被告高島による本件合意の白紙撤回に相当な理由が認められるか否かについて検討するに、前記認定事実によれば、被告高島が本件合意を撤回した理由は、<1>一〇月七日交渉が長時間に及び、原告の組合役員から吊し上げ同然に追及を受ける中、精神的にも肉体的にも疲労し、追いつめられた結果、本件合意をなしたもので、当時、既に生徒の保護者に対し修学旅行に関する日程表を配布済みであることさえ失念していたところ、後日、冷静になって考えると、修学旅行の翌日を代休とした場合、保護者への周知徹底に困難を伴い、保護者を混乱させ学校に対する信頼関係を喪失させるおそれがあると判断したこと(以下「本件理由<1>」という。)、<2>本件合意は、修学旅行の引率教員の時間外勤務に関し、時間による回復措置を認めるもので、条例上の根拠なく特別な休暇を認める結果になるもので、法令等に抵触するおそれがあると考えたこと(以下「本件理由<2>」という。)の二点であったことが認められる。
(三) 本件理由<1>について
前記認定にかかる一〇月七日交渉の経過に照らせば、被告高島が、原告の組合役員からの長時間にわたる厳しい追及により、およそ冷静な判断ができない状態のもとで、押し付けられるようにして本件合意をするに至ったものであることは明らかであって、そのことは原告においても容易に認識し得たものというべきであるところ、地公法五五条の書面協定は、職員団体と当局との平穏かつ誠実な交渉に基づき、互いの熟慮に基づいた慎重な検討を経て締結されることが予定されており、さればこそ、双方がその合意を誠意と責任をもって履行すべきことが定められていることからすれば、当該交渉において熟慮に基づいた慎重な検討をなし得る状況が確保されていなかったことは、後日の検討に基づき、いったん応諾した合意を撤回する相当な理由の一つになり得るものと解するのが相当である。
また、前記認定事実からすると、八幡小学校地区では共稼ぎ家庭が多く、保護者からは、前年度から施行した第二、第四土曜日の休日制度についても土曜日を休日としないでほしいとの要請があり、PTAの役員会においても、二泊三日の野外活動の場合に翌日を代休とすることは理解できるが、一泊二日の修学旅行の場合は困るとの意見が多く出されるなど、一泊二日の修学旅行の翌日を代休とすることについて保護者の理解を得ることが難しい状況が存在していたもので、こうした状況の下で、被告高島が、修学旅行実施の一か月前の時期になって、いったん保護者に日程表を配布しておきながら、数日のうちに先に定めた予定を変更する通知を出した場合、保護者を混乱させ学校に対する信頼関係を喪失させるおそれがあると判断したことには、十分な合理性が認められるから、右の事情も本件合意を撤回する相当な理由の一つになり得るものである。
そして、右の二つの事由を合わせ考慮すれば、本件合意の撤回には相当な理由があったものと認めるのが相当である。
なお、原告は、被告高島が一月一四日合意を尊重していれば、平成六年一〇月七日までに保護者に対して修学旅行の翌日を代休とする旨十分連絡できたはずであるから、同年一〇月六日にこれと矛盾する修学旅行の日程表を保護者に配布していたことは、本件合意を撤回する合理的な理由にはならない旨主張するが、前記認定のとおり、一月一四日交渉において、被告高島は、保護者の意向や周辺の小学校の実施状況など、条件が整えば実施できるかも知れないとの考えの下に、修学旅行の翌日を代休とする方向で検討したい旨の意向を述べたにとどまるものであって、原告主張のような一月一四日合意が成立したとは認めるに足りないものである上、被告高島においては、その後に行われた同年三月二日の校長会で、修学旅行の翌日を代休とすることは時期尚早ではないかとの意見が多く出されたことから、修学旅行の翌日を代休とする条件がいまだ整っていないと判断して、職員、保護者に対して翌日を代休とする旨の連絡をしなかったものであり、被告高島が職員や保護者に対して翌日を代休とする旨の連絡をしなかった経緯について、道義的にも非難されるような事情は窺えないことからすれば、原告の右主張は採用することができないというべきである。
(四) 本件理由<2>について
(1) 本件理由<2>は、本件合意が条例上の根拠なく特別な休暇を認める結果になるものであり、法令(条例等を含む、以下同じ)に抵触するおそれがあるというものである。
ところで、原告の要求は、「泊を伴う修学旅行に関して、勤務時間を適正に割り振り翌日を代休とすること。」であり、本件合意の内容も、「修学旅行の引率勤務は、翌日のまとめどり(八時間)で調整する。」というものであって、いずれも勤務時間の割振りにより修学旅行の翌日の勤務時間をなくすというものであった。
そこで、被告瀬戸市が設置する小中学校の校長の「正規の勤務時間の割振り」を適正に行う権限について検討するに、同小中学校の教職員に適用される法令の諸規定によれば、同校長の正規の勤務時間の割振りの権限は、勤務時間の割振りとして、休日以外の勤務を要する日に勤務時間を全く割り振らないことまでその権限に含むものではないと解される。したがって、休日以外の勤務を要する日に勤務時間を全く割り振らないことは、実質的に条例に根拠を有しない特別の休暇を認めるものにほかならず、このような取扱いは、地公法二四条六項に違反するものというべきである。また、時間外勤務について時間による回復措置として勤務を要する日の正規の勤務時間をすべて削減することも、勤務時間の割振りの権限として当然になし得ることではなく、右と同様、実質的に条例に根拠を有しない特別の休暇を認めるものにほかならず、地公法二四条六項に違反するものというべきである。
そうすると、本件合意は法令に違反する無効なものであるところ(なお、被告市教委との確認事項及び平成六年六月一日の野外活動に関する合意も、右同様の理由により、無効である。)、被告高島は、本件合意をした当時は本件合意が地公法二四条六項に違反する無効なものであることを知らなかったが、横浜地裁判決を読んでこれを知ったのであるから、右事由も本件合意を撤回する相当な理由ということができる。
(2) 原告は、野外活動の翌日を職務専念義務の免除による配慮によって代休とすることが可能であるならば、修学旅行の翌日も、右同様の配慮により代休とすることができる旨を主張したものであって、被告らが主張するような特別な休暇を求めたものではない旨主張している。
しかし、まず、職務専念義務の免除は代休(代替休日、すなわち勤務を要しない日)ではないから、原告の主張はこの点において間違っている。
そして、原告の被告高島及び被告市教委に対する要求はすべて代休を求めるものであったことからすれば、実質的には条例に根拠を有しない特別の休暇を要求していたものにほかならないというべきであり、原告の右主張は採用できないものである。
仮に、原告の代休要求が、職務専念義務の免除による配慮という方法を含むという趣旨でなされていたとしても、本件理由<1>について判示した事情からすれば、それのみで本件合意の撤回について相当の理由の存在を肯定するに十分であり、いずれにしても本件合意の撤回に違法性はないというべきである。
(五) 以上のとおり、被告高島の本件合意の撤回には相当の理由が認められるから、違法性はないというべきである。
2 争点3(交渉拒否の違法性)について
(一) 地公法五五条の登録職員団体と当局との交渉には、団体協約締結権が存在せず、交渉拒否に対する不当労働行為制度による担保も存在しないから、右交渉は、労働組合法六条の団体交渉権に基づく団体交渉とは実質的に異なるものである。
しかし、地公法五五条の交渉も理念的には憲法二八条に由来するものというべきであるから、当局が登録職員団体との交渉を不当に拒否した場合は、同条に反する違法なものとなる余地があると解すべきである。そして、右違法性の有無は、交渉事項の内容、交渉の必要性の程度、交渉申入れの経緯、交渉申入れに対する当局の対応等諸般の事情を総合考慮して判断するのが相当である。
(二) そこで、これを本件について検討するに、一〇月七日交渉後の経緯は、前記認定のとおり、原告は、平成六年一〇月一八日、被告高島から本件合意の撤回通告を受けた後、同月二一日、被告高島に抗議行動を行ったものの、平成七年二月中旬ころまでは交渉の申入れをすることなく、平成七年二月下旬、本件合意の白紙撤回の件について緊急交渉の申入れをなし、同年三月三日並びに同月六日ないし同月八日の四日間にわたって各一時間ずつほど、被告高島との間で右交渉事項について交渉を行ったが、双方とも譲らないままこう着状態となって交渉が終了したため、原告は、平成七年四月以降も、被告高島に対し、本件合意の白紙撤回の撤回を求めること等を交渉事項として、数回にわたって交渉の申入れを行ったところ、被告高島は、既に実施された平成六年度の修学旅行に関してではなく、平成七年度の修学旅行の実施についてであれば交渉に応じる用意があると伝えたが、原告が本件合意の白紙撤回の撤回を求めることを交渉事項とすることに固執したため、平成七年三月交渉と同じことの繰り返しになることは明らかであり、右の件について交渉しても意味はないと考えて、交渉に応じなかったものの、同年六月初めころ、原告から、「修学旅行について」との交渉事項で交渉の申入れがなされたため、平成七年度の修学旅行についてであれば交渉に応ずべきであると考えて、交渉日時を提示したが、原告は、右交渉日時を拒否し、夏季休業期間中を除く他の日に変更してくれるよう申し入れ、二学期が始まっても交渉日時の提示がなかったことから、同年一〇月四日、本件訴えを提起したというものである。
原告は、被告高島が平成七年四月以降交渉に応じていないことを不当拒否として問題にしているが、右の事実からすれば、被告高島が、原告からの交渉申入れに応じなかったのは、原告が交渉事項として本件合意の白紙撤回の撤回を求めることにこだわったからであるところ、右交渉事項については平成七年三月交渉により四日間にわたって交渉が行われ、双方が互いに譲らずこう着状態となって交渉が終了していたものであり、被告高島において、右交渉事項について更に交渉しても同じことの繰り返しであって、意味がないと考えたことには合理的理由があるといえる上、被告高島は、本件合意の白紙撤回の撤回を求めることを交渉事項とする交渉についてのみ応じなかったにすぎず、現に、平成七年度の修学旅行の実施についてであれば交渉に応じることを回答し、交渉日時の提示もしていたもので、交渉ができなかったのは原告との日程の調整がつかなかったことにあり、二学期が始まってから一か月余り経過する間に被告高島において交渉日時の提示をしていないとはいうものの、原告からの催促もなかった上、被告高島が本件合意の白紙撤回の撤回の件以外であれば交渉に応じる姿勢であったことは明らかであるから、平成七年四月以降原告と被告高島との間に交渉がもたれていないとしても、これをもって被告高島が不当に交渉を拒否していたということはできない。
3 争点4(被告市教委の不法行為の成否)について
被告市教委は、被告高島の服務監督権者であるが(地教行法四三条)、被告市教委の大澤課長は、被告高島から、一〇月七日交渉の経過と本件合意をなしたことの報告を受け、本件合意を白紙撤回したい旨相談された際、原告の立場もあるので慎重に検討するよう助言し、参考資料として横浜地裁判決を送忖したにとどまるものであり、かかる大澤課長の対応には格別違法なところは窺えない上、本件合意の白紙撤回は、被告高島が自らの権限と責任においてなしたものであることからすれば、被告市教委において、本件合意の白紙撤回につき責任が生ずる余地はないものというべきである。
この点に関し、原告は、被告市教委は、原告との合意に基づいて、被告高島に対し、修学旅行の翌日を代休とするように指導すべきであった旨主張しているが、前記説示のとおり、修学旅行の翌日を代休にすることは実質的に条例に根拠のない特別の休暇を認めるものであって法令等に違反するものである上、仮に、職務専念義務の免除による配慮という方法があり得るとしても、実際に職務専念義務の免除による配慮をするか否かは、各学校ごとの事情に応じ、それぞれの学校運営に及ぼす支障の程度を考慮し、それぞれの校長において判断すべき事柄であることからすれば、被告市教委と原告との間で被告市教委との確認事項のとおりの合意がなされていたとしても、本件合意の白紙撤回という事態が生じたことについて、被告市教委が法的責任を負う理由はないというべきである。
また、前述のとおり、被告高島による本件合意の白紙撤回には相当な理由があったと認められることからすれば、仮に、本件合意の白紙撤回に被告市教委の指導が影響を与えていたとしても、これにより、原告の利益を不当に侵害したものとはおよそ認められないというべきである。
4 被告瀬戸市の責任について
右1、2で説示したとおり、被告高島の行為に違法性は認められないから、被告瀬戸市に国家賠償法一条に基づく責任がないことは明らかである。
第四結語
以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 林道春 裁判官 田近年則 裁判官松岡千帆は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 林道春)
別紙<省略>